怒りの矛先

食後のコーヒーは濃いエスプレッソがいい。
お腹がいっぱいになっているので、
ほんの少しだけの深い香りを口の中に漂わせることが好きなのだ。
テーブルに置かれたコーヒーを取って香りを吸う。
なんて、良い香り。


母を介護する人間として、兄と弟と私の３人がいる。
離れているところに住んでいる兄夫婦には介護はできないし、
実家近くの弟夫婦は面会やお見舞いには行くけど介護はしない。
なので、なぜか私と夫がかかわるようになってしまっているのだが、
母に接すれば接するほど、彼女の感情の矛先は私に向かう。

使いかけの化粧品の数々、いつもらったか分からない試供品、
仏壇のろうそくで焼いた使えないウィッグ
賞味期限切れの封の開いたお菓子などなど、
ホームに入ってもテーブルやベッドの上は私にすればゴミだらけ。

使わないものや期限切れは捨てなきゃ。
使ったり食べちゃだめよ。と言って
母の言うことを聞かず片っ端から捨てて片付けるので、
私が物を手に取ろうとすると、触るなと怒り出す。

ずっとそうだった。
介護は先手先手をいかなきゃ、大変なことになる。
そう思っていたので、何かにつけて老後のことを話し続けてきた。
何年も話し続けて、何年も猛反撃にあい、
結局、先手を打てないで、ドタバタな介護となる。

自分でできる。誰の世話にもならない。が口癖で、
自分で何もできなくなり、人の世話にならないとトイレにも行けなくて
それでも、自分の家で１人で暮らすと言い張った母が入院し状態悪化。
慌ててホームを探すとろくなことはない。

それでも仕事を休んであちこち走り回り、
少しでも良いところをと思ってあれこれ話を聞き、
やっとのことで入居にこぎつけても、
文句は言われても感謝されることはなく
相変わらず母の怒りの矛先は私に向けられ続ける。

やってらんないなあ～

そう呟きながら、部屋のドアを閉める。
さてと！！　車で待ってるわさびと散歩に行こうっと！！